大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(タ)270号 判決 1966年3月05日

原告 高東植

被告 検察官

主文

原告(生年月日一九六二年七月六日。性別男。)が亡高大業(生年月日一九一二年七月三日。性別男。死亡年月日一九六五年八月一八日)の子であることを認知する。

訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として、

「原告の生母訴外梁善淑は大韓民国の国籍を有する者であるが昭和二二年二月一六日以来、主文第一項に掲げる大韓民国籍の訴外亡高大業と内縁関係を継続し、よつて原告を懐胎し、昭和三七年七月六日原告を分娩した。しかるに亡高大業は原告を認知することなくして、昭和四〇年八月一八日死亡した。

よつて原告は、原告が右亡高大業の子であることの認知を求めるものである。」と述べた。立証<省略>

被告は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「請求原因事実は全部知らない。」と述べた。立証<省略>

理由

一、公文書であるから真正に成立したものと認める甲第一号証の一及び三によれば、原告が父と主張する訴外亡高大業、原告の母と主張する訴外梁善淑は、いずれも大韓民国の国籍を有する者であり、証人占部富美子の証言及びそれにより真正に成立したことが認められる甲第二号証、原告法定代理人梁善淑本人尋問の結果によれば、原告は、昭和三七年七月六日梁善淑の婚姻外の子として出生したことが明らかである。従つて原告は大韓民国国籍法第二条第一項三号により大韓民国の国籍を有するが、我国国籍法によれば日本国籍を有しない者であり、また訴外梁善淑は法例第三条、大韓民国民法第九〇九条第三項により原告の親権者としてその決定代理権を有する者である。

二、そこで、日本国籍を有しない子から、同じく日本国籍を有しない者を父親と主張してなす認知請求につき我国の民事裁判権が及ぶか否かにつき、まず考察するに、認知等身分関係の得喪は国家の公の秩序と密接な関係があるため、当該親子の属する国はそれにつき公的な利害関係を有するのに対し、外国人が単に我国の主権の及ぶ地域に滞在、居住するからといつて我が国が必ずしも公的な利害関係を有するということはできないけれども、相当期間我国に居住して生活の本拠を我国の社会生活の一員たる地位を獲得し我国の住民として社会生活を営む場合には、我が国との間には緊密な結び付きを生じ、その外国人の身分法関係について、我国も公的な利害関係を有するに至るものといわなければならず、他方、また当事者が本国まで出向いて訴訟を提起遂行すべきものとすることは、費用労力、その他訴訟手続をなす上で種々の不便を蒙ることになり、外国人の権利利益の保護の見地からもそれは望ましいことではない。従つて、かかる場合には認知事件についても我国の民事裁判権が及ぶものと解すべきである。

そして前記甲第一号証の三、ならびに原告法定代理人本人尋問の結果によれば、亡高大業は遅くとも昭和二二年以来後記死亡までの間継続して日本に居住生活していたこと、原告も昭和三七年出生以来、共に日本に居住生活していることをそれぞれ認めることができるから、本件にも我国の裁判権が及ぶものと考える。

三、公文書であるから真正に成立したものと認める甲第一号証の一乃至三、証人占部富美子の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証、証人趙淇善の証言及び原告法定代理人本人尋問の結果を綜合すると、梁善淑は昭和二二年二月一六日亡高大業と内縁の夫婦となり、爾来生活を共にして夫婦関係を継続してきたこと、妻の梁善淑は一〇年程前からキリスト教徒として三河島教会に通い夫の高大業も月に一、二度妻と共に教会に行つており、夫はほとんど外泊することもなかつたこと、梁善淑は昭和三七年七月六日は荒川区の訴外占部富美子の経営する産院で原告を出産し、高大業は同産院を訪れて男子である原告の出産を大変喜び、また出産後高、梁夫婦の前で前記三河島教会の牧師訴外趙淇善により原告を祝福する礼拝がなされたこと、高大業は原告を大層可受がつており、自分に万一のことがあつたら子供を立派に育てるよう言い残していたこと、原告、母梁善淑、高大業の各外国人登録原票の記載事項は別紙<省略>のとおりであつて原告は高大業の長男と記され、また梁善淑も原告も、高大業と同じ住所となつていること、なお、血液型は高大業はA型梁善淑はB型であり、原告はA型であつて、親子関係を認めるにつき矛盾することはないこと、そして、高大業は昭和四〇年八月一八日死亡したことを、それぞれ認めることができる。

四、右事実によれば、原告は亡高大業を父として生まれた子であることを認めることができるのであるが、法例第一八条により大韓民国の法律によるべきところ、同国民法第八六三条同法第八六四条に照せば、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担については人事訴訟手続法第三二条第一項、第一七条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 青山達)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例